頸椎椎間板ヘルニアに対する前方固定術(全身麻酔)

1(頸椎椎間板ヘルニアの治療)
頸椎(首の骨)には、脳から続く脊髄という大事な神経が通る管が、柱のように上下に貫
いています。これを頸部脊柱管と呼んでいます。この頸部脊柱管を通る脊髄は首から下の
機能を司るいわば通信回線の幹線のようなもので、脊髄から神経が根っこのように順番に
枝分かれして(神経根といいます)、それぞれの役目の部位につながっています。
頸椎の老化(20代から始る)や酷使、炎症、外傷などのため椎間板(頸椎の柔軟材やク
ッションの役割をしています)が傷み、脊髄や枝分かれしていく神経(神経根)を圧迫す
ることがあります。もともと脊柱管が狭窄(狭いこと)している場合は、この圧迫症状が
容易に出現します。
症状は四肢のしびれ、筋力低下などで、脊髄が圧迫されることによる痙性麻痺(四肢のつ
っぱりを伴う麻痺)が強い場合は、手の細かい動作の障害、歩行障害が顕著になります。
軽い上肢の痺れなど症状が軽い場合は、安静、薬剤の投与、神経や硬膜外の痛み止めの注
射(ブロック)、カラー装着、牽引等により症状が改善する場合があります。しかし四肢
の麻痺のため日常生活に障害がある場合、神経の麻痺症状が重篤な場合(重度の場合は排
尿・排便困難を伴う)は手術をして、神経の圧迫を取り除き症状の軽快や進行の予防をは
かる必要があります。
手術方法は、脊柱管狭窄症がないか症状の主因になっていない場合は、頸椎前方固定術を
行います。

2(麻酔)
手術は全身麻酔で行います。麻酔は麻酔科医が実施します。全身麻酔は安全な麻酔ですが
患者さんの状態、持病、体質、年齢などによってはリスクを伴う場合があります。
なお全身麻酔からさめたとき、まだのどにチューブが挿入されている場合がありますが、
すぐに抜きます。また、手術後しばらくの間、尿道に管を入れている場合があります。

3(手術)
首の前方に切開を加え、頸椎の前方を露出します。ヘルニアを生じている椎間板を前方か
ら切除し、脊髄や神経根の圧迫を取り除きます(除圧といいます)。次に、骨盤の腸骨(
ズボンのバンドがかかる骨)から丈夫な骨を採取してきて、椎間板を切除して生じた空洞
にはめ込み(骨移植)、その部位の頸椎を前方から固定します。骨移植したところは約3
ヶ月で骨癒合します。

4(手術後)
手術直後は脊髄・神経の圧迫がとれたばかりで、かえって一時的にビリビリとしびれが強
く感じることがあります。なお手術後は脊髄・神経の腫れをおさえるため、短期間ステロ
イド(副腎皮質ホルモン)を点滴します。
手術をしてから約10日間はベッドで寝たままです。手足の筋肉などが衰えないように、
その頃からリハビリを開始します。その後、手術前にあらかじめ作製しておいた頸椎の装
具(丈夫なカラー)を装着して歩行していただきます。装具は約3ヶ月ではずします。

5(リハビリ)
人の循環(血のめぐり)、呼吸、筋肉、骨、関節などは不必要に安静にしているとその機
能が低下し、回復に相当な期間と努力を要することがあります。そのため、患者さんの状
態がよければ、手術後できるだけ早くリハビリ等で機能訓練に努めていただきます。

6(再発など)
椎間ヘルニア板を生じている椎間板は既に傷んでいるわけですが、いかなる方法によって
もこれをもとの健常な状態に戻す方法はありません。今回の手術は、脊髄・神経を圧迫し
ている原因を取り除き、脊髄・神経の症状(麻痺)を軽減させるものです。
なお、今回の手術部位以外の脊椎が今後椎間板ヘルニアになったりする可能性は、当然あ
り、場合によっては治療(手術を含む)を要することがあります。
また、脊柱管狭窄症の症状が今後出現すれば、後日、頸部脊柱管拡大術を追加することが
あります。

7(感染)
まれに手術部に細菌が感染し、化膿して治療が困難になることがあります。その予防のた
めに、抗生剤を点滴・内服薬等で投与させていただきます。もし感染を生じた場合は、直
ちにその治療を開始します。

8(後遺障害・合併症)
椎間板ヘルニアによる脊髄・神経の圧迫が著しい場合、脊髄・神経が一部分回復できなく
なっているときがあります。その場合は、しびれ、痙性麻痺が残ります。手術により持病
の悪化、高齢者の場合は痴呆の出現・増悪、肺炎・膀胱炎等の併発、床ずれ等が生じる場
合があります。